【書評】中国の行動原理

書評

こんにちは

悟です。(@rxf7oqjSU4v473O

今回は中公新書の「中国の行動原理」を読んだので書評を書いていきます。

本書の概要

本書では中国の対外行動がどのように決まるかを論じています。

現在は、様々な「中国論」があふれており、「中国=自国第一主義」というイメージがあります。

政治的にアメリカと近い日本では、中国とアメリカの対立が多く報じられ、「陰謀」や「野望」といった印象が強く植え付けられており、他国で繰り広げられる反日運動と大差ないように思えます。

一見、自己中心的な中国の動きにも論理や規則があり、その論理と規則は「国内潮流」である。

というのが本書の主たるメッセージです。

また、中国を語る上で欠かせないものが、共産党の存在です。

共産党の党組織は近年拡大傾向にあり、民間企業の73%地域コミュニティ(日本で言う町内会)の99%以上に党組織があります

広大な中国を統治する上で必要なネットワークを拡大し、世論の把握や各地域で必要な政策決定などを迅速に行おうという意思も感じられ、まさに中国そのものと言えるでしょう。

その共産党についても説明があり、本書を読み進めて行けば、不明瞭だった中国の輪郭が見えてくると思います。

著者情報

著者である益尾知佐子氏の経歴について簡単にまとめます。

主な経歴

学歴

東京大学教養学部教養学科第三(国際関係論)卒業

東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程 修了

職歴

日本学術振興会特別研究員

日本国際問題研究所研究員

エズラ・F・ヴォーゲル研究助手

九州大学大学院比較社会文化研究員准教授 専攻・国際関係論、中国の対外政策

主な著書

中国政治外交の転換点(東京大学出版会)

日中関係史1972~2012(東京大学出版会)

チャイナ・リスク(岩波書店)

日中関係史(訳書)(日本経済出版社)

現代中国の父 鄧小平 上下(共訳)(日本経済新聞出版社)

中国の行動は国内力学が決める

日本が中国を理解できないのと同じで、中国も日本を理解できません。

それは両国の社会構造が異なっているからで、根本的には政治体制の違いです。

中国では、共産党が統治しており、民主集中制を掲げる独裁体制となっています。

党員はなんと8956万人(人口の6.5%)を占めており、入党するのにも審査があり、入党後には様々なメリットが受けられます。

日本で言うと、自民党の支持者になると割引が得られる的なことで、おそらく実現することはないでしょう。

そんな中国の社会哲学を掘り下げていくことで、中国の行動原理を理解していきましょう。

中華帝国があるべき姿として根強い

中国は外からの脅威に敏感だと言われています。

ギリシャの都市国家群よりもはるかに大きな政治を経験してきたこともあり、中国人は自国の壮大な物語に魅了されます。

国内では、あらゆる場所で共からも、部下からもだまし討ちの恐怖にさいなまれており、自分は善、敵は悪という前提に立つことが多くなっているようです。

その結果、世界に対しては陰謀論的な考え方が強くなります

「強大な敵がいつか自分たちを襲う」そのような考えが根強くあり、自分たちが天下統一を実現し、自分たちの目に届く範囲から有力な敵が消滅するまで消えません。

それはまさに、アジア世界の中心だった中華帝国の世界観と重なります。

中国が目指す平和

中華帝国の歴史から、中国人の間で道徳的な優位性や文化の力によって世界からリスペクトされたいという願望の強さが見られるとされています。

既に経済的には世界に大きな影響を与えるレベルに達しており、世界最大の経済国となるのも時間の問題です。

ただ、経済力や軍事力によって地位を得るだけでは不十分で、権威には力による裏付けが不可欠であると認識されています。

現在の中国は世論的にも、国防費の拡大が支持されているのも、これらの考え方があるからです。

国防費が拡大したからといって、他国を侵略したいと考えている訳ではありません。

中国では、自身が他国に内政干渉したり、武力を行使することは不快だという考え方が主流のようです。

あくまでも、自国と周辺地域が共同体家族のような形をとり、穏やかな世界が構築されることを期待しています。

後に説明する一帯一路戦略にも分かるように、中国は周辺地域への投資や支援にもかなり力を入れています

それは相手国のためでもあり、中国自身のためでもあり、他国が中国の利害抜きで語れないレベルで関わることで影響力を高めているとも取れます。

家族のあり方が、その国や企業を表す

中国に限らず、国や企業の組織構造を考える際の参考になるのが、家族制度です。

本書では、族制度が国や企業構造の根本にあたるとの考えから、日本と中国の家族制度を比較しています。

日本人から見た、中国に対するなぜ?を理解する手助けになるでしょう。

日本と中国の家族制度

まず日本と中国の家族制度を比較します。

学術的に日本は「権威主義家族」中国は「外婚制共同体家族」に分類されます。

日本の権威主義家族

日本の伝統的な社会組織は、階層が何層にも重なり家系図のように枝分かれします。

家の中には、自分がいて、両親が居て、祖父母、さらには曾祖父母がいることもあるでしょう。

叔父さんや叔母さんの家族も近くに住んでおり、正月やお盆などのイベントごとに関わりがあり、組織は長時間の持続を前提とします。

また、一般的に年長者ほど、上の世代ほど敬意を受けます。

長男は家を継承する存在で、同じ世代の中にも序列があるのが一般的です。

長男には、家を継承する権利がある一方で、弟や姉妹、分家の面倒を見る責任もあります。

これを企業に当てはめると、平社員の上に、係長、課長、部長、社長となり、家族制度と極めて似ています。

また、自分が平社員だとして、場合によっては係長を飛ばして課長や部長に話を持って行くこともあるでしょう。

このような現場からのボトムアップが行われるのが日本的な組織の特徴です。

 

それは肯定的に捉えられ、組織を守る上で必要であると認識されています。

その結果、権威と責任もそれぞれの長に分散されており、組織内で誰が権力を持つのか特定しにくくなります。

一方で、組織は一丸となって成長をめざし、他社に対して排他的なグループが出来やすくなります。

中国の外婚制共同体家族

日本は盾に長い階層的組織でした。

一方で、中国や台湾の組織は、横に平べったい構造となります。

このような組織では夫婦とその子どもたちからなる複数のグループが、共同体のなかで大家族として一緒に暮らします。

その中では、夫たちの父親(家父長)1人に絶対的な権威が集中し、家父長と息子たちの一対一の関係性が束で成り立っています。

家父長が亡くなれば、遺産は息子たちの間で分配され、共同体は解散します。

このような組織では、家父長の権威は非常に大きくなり、家族を養うことに全責任を持ちます。

息子たちの相互の間には命令・服従の関係がほとんどなく、基本的に平等であると言われています。

そのため、息子たちは家父長の命令に忠実であることが求められ、それが評価につながります。

これを企業に置き換える場合、もちろん組織が大きくなると、係長、課長、部長といった階層的な職位が生じます。

それでも、「老板(ラオパン)」と呼ばれる社長の絶対的な権威の前では、従業員間の関係は平等に近いようです。

組織の中の身分は、ボスの評価で決まるため、従業員間の下克上の可能性が十分あります。

このような外婚制共同体型の組織では、ボスの能力が組織の成功に大きく関わります。

トップダウンで物事が進んでいくため、変化に即座に対応でき、急成長しやすい構造です。

潮流を読む力が上に行く力

「中国人は必ず潮流を読む」

これが日本との違いで最も大きな部分です。

中国では、トップの寿命や時々の考え方により波が生じます。

その下に居る人は、「今がどういう潮目の時期か」を常に読み取ろうとし、潮流に乗ろうというモチベーションがあります。

日本では、組織は良くも悪くも安定しており、世代交代はスムーズに行く一方で、周囲に対して排他的な組織となり変化が起きにくい構造となっています。

中国はまさにその逆で、ボスの生命力が組織の持続時間の最大の要素であり、周囲の変化に上手く対応することが出来ます。

だいたい、数十年スパンで大きな波がやってきて、ボスの意向の半歩先を進める人が上に上っていける人財となります。

一帯一路は地方政府から始まった

最後に、家父長の意向をくみ取ってきた例を紹介します。

国内潮流に群がる企業と人々

1980年代、当時のリーダーである鄧小平は、経済建設を最優先する方針を固めました。

その結果、党内の様々なアクターで経済を中心とした政策が進むようになります。

解放軍では100万人規模の人員が削減されるなど、関係のなさそうな分野でも、指導部の意向に沿った政策が行われます。

地方でも、合弁企業、生産請負制を始めた農村などはを対象とする視察が頻繁に行われ、各地の変化がモニタリングされました。

現在は、「国防白書」や「中国製造2025」など中国政府の方針を示すものが国内で注目されています。

企業もこれらのムーブメントの中心となるべく経済活動が進められています。

地方政府の成功例(広西チワン自治区)

北京の指導部が中国全土を完全にコントロールすることは不可能です。

そこで行われるのが、経済や民生に関する決定事項は任せた上で、各省のGDP成長率を使って競わせることでした。

成果を上げた省は中央政府に取り立てるなど、モチベーション管理を行いつつ、地方政府の統率を行いました。

その中で、成功例として有名なのが、一帯一路戦略のモデルと言われている広西チワン自治区の活動です。

広西チワン自治区は中国南部に位置しており、中国最大の少数民族チワン族の現住地です。

wikipediaより引用

wikipediaより引用

省都である南寧は、21世紀初頭小さな地方都市でした。

それが2003年に中国ーASEAN博覧会の永久開催地に指名されてから国内外の投資が集まり急速に発展しました。

広西チワン自治区では、東南アジアと陸路と水路で接しており、他国とつながれる立地がありました。

経済的にはかなり厳しい状況だった南寧では、ASEANとの拠点を目指すべく、自腹でリゾート地区を整理し、ベトナムとの陸路での接続を高める交通インフラの整備を積極的に行います。

中国の地方自治政府は、外交権を持ちませんが、周辺地域への根回しや経済協力などを行い、中央政府を出し抜くスピードで関係を構築していきました。

地域外への積極的な投資や関係構築が功を奏し、前述の博覧会の開催地を手に入れました。

広西チワン自治区の成功は、他の地方政府の動きを活発化させました。

他の地域も積極的に対外投資を行い、経済的な連携を強めていくのが一種のブームとなりました。

その後、これらの活動を国家レベルにしたのが「一帯一路」です。

一地方政府の活動から国家の未来を左右するムーブメントが起こるのが中国です。

まとめ

簡単ですが、本書についてまとめました。

本書はあくまでも中国にフォーカスした内容でしたが、家族構造が国や企業といった社会全体を形作るという視点は重要だと思いました。

他の国、アメリカやヨーロッパ諸国などの歴史や政治を勉強する時に思い出すと参考になるかもしれません。