【書評】日本を救う未来の農業-イスラエルに学ぶICT農法- スマート農業の行方

書評

こんにちは

悟です。(@rxf7oqjSU4v473O

今回はちくま新書の「日本を救う未来の農業-イスラエルに学ぶICT農法」を読んだので紹介します。

本書は、日本の農業と世界のスタンダードを紹介、最後に日本の農業の進むべき道について言及しています。

日本の農業のすばらしさや将来について書かれた本は多く存在しますが、世界の農業との比較について詳細に書かれている本は本書以外にあまりありません。

そのため、本書は日本の農業の現在地を知るのに最適です。

本書の目次

本書の内容を簡単にまとめました。購入の際の参考にして下さい。

第1章 日本に迫りつつある危機

日本の農業の問題点は、これまで高齢化や担い手不足、耕作放棄地、自給率と言われてきました。

大学も例外ではなく、新入生の多くはこれらのことを教わるはずです。

しかし本当の問題はこれらのことではなく、もっと根本的な問題が本書を読み解くことで明らかになります。

第2章 すべてを解決する新しい農業の形

日本の農業の問題は、「農産物の価格が高い」ことです。それも世界1高く、これ以上不名誉なことはありません。

アジア地域の8倍の価格となっており、これまでは関税をたくさんかけて国内の農産物を守ってきました。

この価格差は、海外の農業がアップデートされたのに対し、日本の農業はほとんど成長していないことから来ており、これについては後述します。

第3章 最先端ICT農法農業とは-イスラエル式農業

最先端農業と言えば、オランダの方が有名かも知れませんが、本書ではイスラエル式農業を押しています。

イスラエルは土地の大半が砂漠となっており、とても農業ができる環境ではありませんが、実は単位面積あたりの農業生産高は日本よりも遙かに上です。

厳しい環境ゆえに発展してきた技術が水やりと肥料を自動で行うドリップ灌漑です。

第4章 イスラエル式農業の日本への応用実験

本章は、ドリップ灌漑を日本でも実施して、生産性が向上するかということを実験したものです。

結論からいうと向上したのですが、農学部生から見ても実験としては難しいことはあまりしていないように感じます。

実は、日本の農業では「生産性を向上させる」ことを目的とした研究はほとんど行われていません

食味や新品種の実験は盛んに行われているのですが、新しい栽培方法を検討した研究はあまりありませんでした。

第5章 近未来の農業の形

筆者がイスラエル式農業を勧めるのは、今後導入されるであろう自動制御システムが全て、ドリップ灌漑とセットになるからです。

これに関しても後述しますが、今はセンサーといっても温度や湿度、土壌水分などですが、ここも技術革新が進み、もっと詳細なアミノ酸や植物の生長量といった詳細なデータの取得が可能になるはずです。

そういった場合に、データを栽培にフィードバックする対象としてドリップ灌漑が第一候補として考えられています。

農薬大国の日本に迫る危機

「世界で一番危険な作物をつくっているのは、どの国だろうか?」

この質問に対して、筆者の大学の学生たちは「アメリカ 中国」という答えを返しており、私自身も同じような意見を持っていました。

なにか農薬をたくさん使っていそうなイメージがあり、アメリカ産はともかく、中国はどうだろうかと正直思っています。

しかし、農地1haあたりの農薬使用量は、日本の11.4kgに対し、アメリカは5分の1です。

ちなみに中国は13kgとなっており、日本は中国と同レベルの農薬大国なのです。

農薬が必ずしも危険とは限りませんが、「有機農業」や「無農薬」が好まれる傾向にある日本のマーケットで、ここまでの農薬使用量はかなり驚きではないでしょうか。

また、日本の農産物は世界1高く、その価格で商売をするために国内市場は、関税により守られてきました。

しかし、TPPやEPAの発行により6年後には、多くの農産物の関税は撤廃されます。

トマトやナス、キャベツなどは、既に0%になっており、今はまだ目立ちませんが、店頭に並ぶのも時間の問題だと思われます。

数年後、スーパーに農薬が多く価格も高い日本産の農産物と農薬も少なく価格も安いヨーロッパの農産物が並んだとき、あなたはどちらを選ぶでしょうか。

私自身、農学部に在籍していますが、EPAやTPPによる市場の変化を認識することはあまり多くありませんでした。ただ、本書にある通り、日本の農業はまさに転換期を迎えていると思います。

50年生産性の向上していない日本の農業

前のパートで、日本の農産物が世界で1番高いと言いました。

その最大の原因は、生産効率が悪いことです。そして、その根本的な原因を指摘する農業関係者に筆者は出会ったことがないようです。

ただ研究レベルでは、生産性は重要なキーワードです。

あらゆる論文の目的は生産性の向上であり、生産性を追い求めない農学研究者はいないはずです。

筆者が言っているのは、「農業関係者」なので、おそらく生産者のことを指していると思われます。

高度な栽培管理は、研究レベルでは可能でも結局、現場で実装できるかというと別問題で、農家が自分の栽培方式をアップデートするまでは至っていないという意味でしょう。

本書の中心となっているイスラエルの農業ですが、日本と比較すると生産性の伸びに驚きます。一方で日本の生産性がほとんど変化していないことがよくわかります。

イスラエルの1haあたり収量の経年変化

イスラエルの1haあたり収量の経年変化

日本の生産性が低いままで、海外の生産生が上がれば価格差はどんどん開いてしまいます。これが日本の農産物の価格が世界1高くなってしまった要因です。

近年は、ロボットトラクターや様々なセンサーが導入されつつありますが、このままでは宝の持ち腐れとなり、生産生の向上は見込めません。

農業の生産性を高めるのに必要なこと

農業の情報化や機械化が求められていますが、具体的に何をすればいいのかわかっている人は多くありません。

現状では、高度なセンサーを導入してあらゆる環境データを集め、それをスマホで確認するのが一般的です。

しかし、多くの人にとっては環境データの収集をしても、「で?どうするの?」となってしまいます。

それは、大量のデータを人間がさばききれないからです。

データをとったところで、そのデータを元にマニュアルで水やりの指示をだしたり、施肥を行うには限界があります。

そこで有効なのが、自動で各種作業をしてくれるシステムです。ロボットなど高度である必要はなく、データを読み解いて、自動で行動してくれればいいのです。

本書では水やりと施肥を自動で行うイスラエル式ドリップ灌漑を推奨しています。

ドリップ灌漑は、農場に灌水チューブを這わせ、必要な時に必要な量、水や肥料をやるシステムのことです。

日本は雨が豊富ですが、筆者の実験によってその有効性は示されています。

ドリップ灌漑に限らず、センシングした大量のデータを解釈して、生産にフィードバックできるシステムがなければ、これから研究で明らかになる知見を一切利用することが出来なくなってしまいます。

まとめ

少し長くなりましたが、本書の紹介を行いました。

農学部の私にとっても初めて知る内容が多く、日本の農業の最新事情が豊富に含まれていると思います。

既に農学部の人はもちろん、大学進学の際に農学部を検討している受験生にもおすすめです。