【書評】日本の航空産業 国産ジェット機開発の意味と進化するエアライン・空港・管制

書評

こんにちは

悟です。

今回は、「日本の航空産業 国産ジェット機開発の意味と進化するエアライン・空港・管制」を読んだので紹介していきます。

「三菱リージョナルジェット(現三菱スペースジェット)」の完成が近づく中、日本国内でも航空機産業はかつて無いほど注目を集めています。

また、政府は「観光立国日本」を目指すことを表明しており、訪日外国人の数を、2020年には4000万人2030年には6000万人に増やすことを目標としています。

そして日本の訪日外国人の99%は航空機の利用によるものなので、訪日外国人の数=航空機による外国人の流入ということになります。

訪日外国人旅行客数(観光庁より作成)

訪日外国人旅行客数(観光庁より作成)

2019年と2020年は、少々厳しいデータが出そうですが、これからも航空産業は日本にとって非常に重要なものになるはずです。

本書の概要

本書は、そんな航空産業を、完成機メーカーとエアライン、空港、整備や管制といったあらゆるプレイヤーの現状と課題を幅広く解説されています。

 

東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻で行われている「航空技術・政策・産業特論」という講義を書籍化したものになります。

本書を読むとわかること
  • なぜ今完成機メーカーを目指すのか?
  • 度重なる納期の遅れは、なぜ起きるのか?
  • 国内に完成機メーカーが出来ることで何が起きるのか?
  • 空港はどんな工夫が行われているのか?

作者情報

作者である渋谷容氏の経歴などについてまとめます。

主な経歴

経歴

1995年 東京大学法学部卒業

同年 運輸省(現国土交通省)入省

2015年 東京大学総括プロジェクト機構特任教授

2019年 公共政策大学院特任教授

航空機を作る

みなさんは航空産業の全体像を考えたことがあるでしょうか。

  • メーカーはボーイングかエアバスでしょ?
  • エアラインは各国にあるよね。

私は本書を読む前まではその程度の認識でしたが、実際は国や企業がしのぎを削る、世界で一番過酷な産業だと思いました。

まずはメーカーについてです。

旅客機は4大完成機メーカーの寡占市場

「メーカー」はいわゆる完成機メーカーと呼ばれる企業です。

自動車メーカーでいうと、トヨタやホンダです。傘下の部品メーカーはそれこそ莫大な数存在しますが、それらをとりまとめるインテグレーターが開発や試験、納品後のアフターサービスなどの責任を全て持ちます。

その結果、インテグレーターとなる企業は現状世界に4社しかありません。

世界を代表する4大完成機メーカー
  1. ボーイング
  2. エアバス
  3. ボンバルディア
  4. エンブラル

(全て売上順)

(軍用機なども含めると、ロッキード・マーティン、エンジンなど主要部品も含めると、ユナイテッド・テクノロジーズなどが入ってきます。出典:航空業界の世界ランキング:三菱重工のMRJやホンダジェットは、欧米に食い込めるか

ただ、エンジンなども開発企業は非常に少なく、長い競争を生き抜いてくるのが如何に困難かわかります。

大型機と小型機の棲み分け

旅客機には大まかにクラス分けがあります。

旅客機のクラス分け

大型機:通路2本、400席以上(いわゆるジャンボジェット機 成田ーホノルル便など)

中型機:通路2本、200席以上(羽田ー札幌便など)

小型機:通路1本、100席以上(羽田ー伊丹便など)

リージョナルジェット:100席未満

その内、大型から中型までをボーイングやエアバスが製造しています。

乗客として見ると、地方の主要都市から東京に行く場合や、国際線に乗る場合はボーイングやエアバス、地方都市同士で行き来する場合は、エンブラルかボンバルディアというイメージです。

ちなみに、エンブラルはボーイングと提携し、ボンバルディアはエアバスと提携しています。

完成機事業の役割

完成機メーカーの役割は航空機全体の設計・製造、販売・サポートの全てに責任を持ちます。

そして、これら全てについて知識・経験が求められる非常に高度な仕事です。

航空機の部品数は100万点とも言われ、それらの機能や性能を全て把握し、安全に航空機が飛ぶことを保障しなくてはなりません。

更に納品した後も20年~30年もの間でアフターサービスを提供する必要があります。

不具合発生時には速やかに対応し、復帰させるなど、世界中で即時対応できることも必要です。

もちろん、メーカーがそれ以上の期間、存続することも購入するエアライン側からは懸念事項となるため、結果的に企業体力があり、実績のある企業が残っていくことになるわけです。

市場の穴をつく三菱スペースジェット

老舗企業が、がっちりと市場を固めているため、新しく参入する企業が勝つには、これまで市場にないような座席数帯を攻めるか、新しい技術が搭載された機種を投入するかのどちらかになります。

これを「ゲームチェンジャー」と言い、20年~30年先の市場にフィットするような性能や客席数などが求められます。

三菱スペースジェットは燃費などの環境性能は、現在の基準を大幅にクリアしており、今後厳しくなって行くであろう環境基準に対応しています。客席数についても、現在の市場ではあまり利用されていない100人未満となっており、航空機がこれまでよりも幅広く利用され、地方間の直通便など小回りを効かせたものになっています。

国内の完成機メーカーの誕生は、周辺産業も含めた技術力の向上や、航空機を作るために必要なマネジメント力の向上など、国内の産業をリードしていく存在になると考えられており、まさに待望の存在と言えます。

エアラインの役割 人を運ぶ、世界ネットワーク

航空機を買う側のエアラインの世界はどうでしょうか。

私の認識では、エアラインについては「各国に何社か強い会社があるよね」という認識でしたが、そんなに単純ではありません。

エアラインは3つの派閥に分かれている

スターアライアンス、ワンワールド、スカイチーム

よく、飛行機に乗っていると、

  • 「スターアライアンスメンバーANAをご利用いただき…」
  • 「今日もワンワールドメンバー日本航空をご利用いただき…」

というアナウンスを聞くと思います。

このスターアライアンスやワンワールドのことを航空連合と言い、エアライン界の派閥のようなものです。

連合のメリットについては後述するとして、各アライアンスの所属企業をざっとまとめておきます。

スターアライアンスメンバー

ANA、シンガポール航空、ユナイテッド航空、南アフリカ航空、ルフトハンザ航空など

ワンワールドメンバー

日本航空、マレーシア航空、カンタス航空、アラスカ航空、キャセイパシフィック航空など

スカイチーム

大韓航空、中国東方航空、ガルーダ・インドネシア航空、エールフランス航空など

広域・地域航空ネットワークの構築

連合内では、マイレージサービスやコードシェア便の相互乗り入れが行われており、乗り継ぎも効率的にできるようダイヤ設定がなされています。

空港によっては、チェックインカウンターの共同利用やラウンジの利用が可能になります。

連合を組むことで、自社のみではたどり着けない海外の地方空港などに対しても、自社のお客さんを運ぶことができるため、加盟企業みんなにメリットがあります。

そのため、乗り継ぎに関しては、同じアライアンスが利用出来るように設定されています。

例えば、「大分空港からシカゴ国際空港(アメリカ)」に向かうとします。

Googleで経路検索を行うと、航空機の乗り継ぎと所要時間などが表示されます。

上位2つに注目すると、いずれも羽田空港を経由するルートです。

1つ目が「日本航空」(ワンワールド)と「アメリカン航空」(ワンワールド)

2つ目が「ANA」(スターアライアンス)と「ユナイテッド航空」(スターアライアンス)

となっており、同じアライアンス同士の乗り継ぎが提案されています。

移動の選択肢を広げ、地域経済の発展に貢献

エアラインが新しい空港に乗り入れるためには、当然該当する空港との交渉が必要です。

空港の管理は民営化が進んでいますが国内外をつなぐ重要なインフラです。

そのため、空港の拡張や整備などには、国土交通省から予算が下りることになっており、路線の新規開拓には該当する行政との話し合いも当然行われます。

「訪日外国人の99%は航空機から」と言ったように、空港が長距離移動の玄関口となります。

各都市からの直行便が始まるということは、乗客にとっては旅行やビジネスなどの新しい選択肢が加わることになります。

空港を経由して流入した人々は、域内の鉄道やバスなどを利用し市街地へ移動し、ホテルに滞在し飲食店や買い物を通じてお金を落としていきます。

エアラインは自社の利益や空港の利益を得るためには、地域経済のポテンシャルを把握し、見えない需要を発掘することが求められています。

また、開拓にあたっては、どの機種を使うのか、それに伴い新しい整備員や整備機器が必要になるのか、週に何便飛ばすのかなどを計算する必要もあり、エアラインにとっても空港にとっても大きな選択となります。

「試しに乗り入れてみる」といった軽いノリで行えることではありません。

エアライン側も、完成機メーカーと同様にハイレベルなビジネスが行われており、航空産業の発展によって国内のあらゆる産業の底上げに繋がると言われています。

まとめ

以上、簡単に本書についてまとめました。

航空産業について、深く考える機会もなかったため、全てが新鮮で書評と言いつつ、完成機メーカーとエアラインについての話で終始してしまいました。

本書では、「国内で完成機メーカーが出来ることの意味」が主たるメッセージとなっているので、そこは本書を読んで知ってもらえたらと思います。

この記事では触れていない、管制や産学官の連携などについても完成機メーカーの誕生により更なる発展が見込まれている分野です。

航空機産業に興味がある人は是非手に取ってみてください。